1.「特発性大腿骨頭壊死症」とはどのような病気ですか?
大腿骨頭の一部が、血流の低下により壊死(骨が腐った状態ではなく、血が通わなくなって骨組織が死んだ状態)に陥った状態です。
骨壊死が起こること(発生)と、痛みが出現すること(発症)、には時間的に差があることに注意が必要です。つまり、骨壊死があるだけでは痛みはありません。骨壊死に陥った部分が潰れることにより、痛みが出現します。壊死の範囲が小さい場合などでは生涯にわたり痛みをきたさないこともあります。
厚生労働省の特定疾患に指定されており、医療費補助の対象となっています。
2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか?
日本全国における1年間の新規発生数は約2,000〜3,000人で、これら新患における好発年齢 は、全体では30〜50歳代、ステロイド関連に限ると30歳代です。
働き盛りの年代に好発するといえます。
3. この病気の原因はわかっているのですか?
特発性大腿骨頭壊死症は、危険因子により、ステロイド関連、アルコール関連、そして明らかな危険因子のない狭義の特発性に分類されています。
以下の2つは、強い危険因子といわれています。
・「ステロイド薬を一日平均で15mg以上程度服用したことがある」
・「お酒を日本酒で2合以上、毎日飲んでいる」
なお、ステロイド薬はいろいろな病気の治療のために使用します。既に処方されているステロイド薬を勝手に中止したり、量を減らすと、元の病気が悪化することや具合が悪くなることがありますので、決して自己判断で中止したり減らしたりしないでください。
4. この病気は遺伝するのですか?
遺伝との関連は今のところはっきりとしていません。
5. この病気ではどのような症状がおきますか?
骨壊死が発生しただけの時点では自覚症状はありません。症状は骨壊死に陥った部分が潰れて大腿骨頭に圧潰が生じたときに出現します。
大腿骨頭壊死症の発生から症状が出現するまでの間には数ヵ月から数年の時間差があります。自覚症状としては、比較的急に生じる股関節部痛が特徴的ですが、腰痛、膝痛、殿部痛などで初発する場合もあります。 初期の痛みは安静によって2〜3週で軽減することもありますが、大腿骨頭の圧潰の進行に伴って再び増強します。
6. この病気にはどのような治療法がありますか?
治療法は年齢、内科的合併症、職業、活動性、片側性か両側性か、壊死の大きさや位置などを考慮して決定します。
壊死の大きさや位置から予後がよいと判断できる場合や症状がない場合は保存療法の適応です。関節症性変化が進むまで可動域は比較的保たれるため、積極的な可動域訓練は必要ない場合が多く、疼痛が強い時期には安静が大切です。杖による免荷や、体重維持、長距離歩行の制限、重量物の運搬禁止などの生活指導を行います。疼痛に対しては鎮痛消炎剤の投与で対処します。 しかしながら、これらの方法では圧潰の進行防止は大きく期待できないため、圧潰進行が危惧される病型では骨頭温存のための手術療法の時機を逸しないことが重要です。症状が出現すれば、変形が進む前に手術療法を受ける方が治療効果は高くなります。
自覚症状があり圧潰の進行が予想されるときは速やかに手術適応を決定します。若年者においては自分の関節を残す骨切り術が第一選択となりますが、壊死範囲の大きい場合や骨頭圧潰が進んだ症例、高齢者などでは人工関節置換術が必要となることもあります。
大腿骨の転子間部で大腿骨頭及び頸部を内側に傾け(内反させ)たときに、壊死部が内側へ移動し荷重部からはずれる場合に適応があります。 |
大腿骨頚部軸を回転軸として大腿骨頭を前方あるいは後方に回転させることで壊死部を荷重部から外し、健常部を新しい荷重部とする方法です。 |
圧潰した大腿骨頭を人工骨頭で置き換えたり、股関節全体を人工股関節で置換します。骨切り術に比べて早期から荷重が可能で、入院期間も短期間ですみますが、人工物自体に耐久性の問題があり、将来再置換術が必要になる可能性があることを念頭に置く必要があります。若年者の場合は骨切り術の可能性をできるだけ追求し、人工関節置換術の適応には慎重でなければなりません。 |
7. この病気はどういう経過をたどるのですか?
もともと血液循環の悪いところだけが壊死するので、その周囲の比較的血液循環のよい部分は時間が経過してもそのままです。
したがって、細菌感染のように周囲に広がることはなく、ほとんどの場合、大きさに変化はありません。逆に、範囲が小さい場合は修復されて時間の経過とともに縮小することがあります。
合併疾患に対するステロイドの投与を継続しても壊死の範囲は大きくならないため、必要に応じてステロイドを継続投与することは可能です。
8. MRIでの精密検査で骨壊死が認められた股関節通患者様の例
